知人と食事に行ったときのこと。
厨房をかこむようにカウンター席がならんでいるあまり大きくないお店。
作っている様子がまる見えなお店。
そこでラーメンを頼んだのですが、ラーメンどんぶりに
銀色の缶に入った白い粉をがんがんと入れていました。
食べてみるとなかなかおいしかったのですが、
知人「化学調味料いれすぎてて体に悪そうだった」との発言。
ふーんあまり気にしていなかったな。
いや、わたしがむとんちゃくすぎるのか…?
と思い、こんかい調べてみました
うま味調味料(化学調味料)とはなに?
タイトルでは”化学調味料”と書きましたが、現在、政府機関や業界など公式では”うま味調味料”と呼ばれています。
うま味の歴史はまだ浅く、明治時代の1908年に東京帝国大学の池田菊苗博士により昆布だしに含まれる成分のグルタミン酸が発見されたのがはじまりです。
博士によりその味を「うま味」と名付けられ、甘味・酸味・塩味・苦味とは別の味覚として加えられ、5つの基本味のひとつとして考えられるようになりました。
このグルタミン酸が加工され、グルタミン酸ナトリウムとなり、味の素などの「うま味調味料」として商品化されるようになりました。
うま味調味料ができるまで
原料は自然の農産物!
現在は世界100以上の国と地域で使用されるうま味調味料。
各地域でとれるさまざまな農作物を使用しております。
アジアでは さとうきびやキャッサバ
アメリカでは とうもろこし
南米では さとうきび
ほかにも さとうだいこんや小麦 など…
さとうきびは絞り出した糖蜜を使用します。とうもろこしやキャッサバなどはデンプンから糖分を抽出し使用します。
うま味成分は発酵法により作られる!
さきほどの農産物から得られた糖分にグルタミン酸生産菌という発酵菌を加えて発酵させる発酵法がつかわれています。
この発酵法、食品加工では味噌や醤油、ビールではアルコールの製造法でも用いられている技術です。
そうやって作ったグルタミン酸から、活性炭やろ過を使用して不純物を取りのぞきます。
グルタミン酸のままですと液状のため、調味料として使いやすくするために水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)と結合させて結晶化、乾燥させることにより市販されている姿のうま味調味料ができあがります。その過程で苛性ソーダは無害となります。
結合によりナトリウム(塩)がつくため多少の塩分を含むようになりますが、一般的な食塩にくらべると塩分量は1/3となります。
世界中で認められた安全性!
こうやって作り出されたグルタミン酸と、植物や生物の体内にもともとそんざいしているグルタミン酸の成分はまったく同じものです。
人間の体内にもアミノ酸の一種としてそんざいしております。
うま味調味料であるグルタミン酸ナトリウムは食品衛生法により原材料の添加物として調味料へと分類されております。
そして、食品衛生法に定められた安全性試験で発がん性や遺伝毒性などに問題はないとして認められているというわけです。
あとの「中華料理店症候群」のところでもふれますが、
国際連合食糧農業機関(FAO)や世界保健機関(WHO)などにも認められ、米国、欧州の各機関にも安全性をみとめられております。
また、毎日摂取し続けても健康に生じる摂取量もとくに設定されていません。
(WHOでは塩分は、いちにちあたり5グラムまでとされている)
減塩してもうま味でおいしく!
うま味調味料は食塩よりも少ない量でじゅうぶんなコクや深みを与えてくれます。
例えば日常的につくる味噌汁、
「減塩を気にしするようになったら味がもの足りない…」
そんな時にうま味調味料を使用すれば、減塩のもの足りなさをおぎなってくれたりします。
お料理レシピにうま味調味料が入っていると、インターネットだけじゃなく、書籍に対しても批判が殺到するという現状もあるようです。
ですが、過度に否定的にならずにうまく使っていくことで、日々の料理をおいしく味わうためのおともにしてみてはいかがでしょうか。
赤ちゃんもうま味をあじわっている!
うま味は生まれたばかりの赤ちゃんにとってもだいじな味覚のひとつです。
お母さんの母乳にはグルタミン酸が豊富に含まれていて赤ちゃんは生まれたときからその味にふれながら育っていきます。
(生まれてからどころか、お母さんのおなかの羊水にもグルタミン酸が含まれているのでおなかの中でもうま味成分にふれているそうです。)
離乳期の赤ちゃんに野菜スープをあたえたら顔をしかめた拒絶の表情になったそうですが、それにうま味を与えることで穏やかな表情で食したそうです。
ひとは本能的にうま味を受け入れるようになっているわけですね。
味の素では妊婦や胎児はもちろんのこと、乳幼児が食べても問題がなく安全であることを確認しているということです。
とはいえ、グルタミン酸ナトリウムには塩分を含んでいます。塩分摂取での健康への影響も不安です。
そういった離乳食期の赤ちゃんのために、”乳児用規格適用食品”に認められている”無添加だし”というのも売られています。
食育に苦労している方はそういったものを使用してみてはいかがでしょうか。
化学調味料と呼ばれたワケ
グルタミン酸ナトリウム、化学調味料、うま味調味料、海外ではMSG(Mono Sodium Glutamate)と呼ばれたり。なぜ化学調味料と呼ばれたのでしょうか?
それは1960年頃、NHKがテレビで紹介するときに商品名の”味の素”の名前を避けて「化学調味料」と表現したのが広まったそうです。
”ゴールデンウィーク”をNHKでは”大型連休”と呼んでいる理由とおなじですね。
マスコミで言われた「化学調味料」の表現がひとり歩きして、【化学=体に悪い=化学調味料は体に悪い】といった間違った図式を作り上げるきっかけにもなってしまいました。
しかし、業界団体もそれにならい「日本化学調味料工業協会」と名乗っていました。
”化学”と”工業”…。これはカラダに悪影響がありそうな名前ですね。
そんな悪いイメージを避けて1990年代から「うま味調味料」呼び替えられるようになりました。食品の原材料名では「調味料(アミノ酸等)」と表示されています。
業界団体もいまは「日本うま味調味料協会」と改名しています。
しかし、それだけで悪い印象がつけられたのでしょうか?ほかにきっかけがありました。
誤解を生んだアメリカの「中華料理店症候群」
そのむかし、1968年にアメリカで発生した「中華料理店症候群」というものがあります。中華料理を食べた一部のアメリカ人が食後に眠気、頭痛、しびれ、顔の紅潮などが発生するが、しばらくすると治るという症状がありました。
それから少し年月が経ってから神経生物学者が研究論文を発表しました。
その内容は
「中華料理や日本料理の風味として使用されているが、グルタミン酸は神経伝達物質でありそれを大量摂取することで神経毒として作用するかもしれない」
…という内容でした。
グルタミン酸はアミノ酸の一種です。
脳内ではそういった作用をするかもしれませんが食事として摂取しても脳内に影響はしません。そもそも食事で摂取しても血液中から脳へ直接運ばれることはなく、脳内のグルタミン酸は脳内で合成されたものが使用されています。
異国の食事はひとによってはカラダに合わないことがあったりしますが、
中国料理の塩分量や劣化した油脂に弱いひとが多数いたために発生したのではないかと今では原因として考えられています。
当時の研究では、実験動物へのグルタミン酸腹腔注入を過剰な量で行い、それにより発生した症状を「グルタミン酸の悪響」というようなむちゃくちゃな根拠にされたそうです。過剰摂取すれば水でも塩でも死に至りますので悪意ある研究報告ですね。(いまのマスコミもこのような手法は多様してますが。)
その後、”FAO/WHO合同食品添加物専門家会議”や”欧州連合食品科学委員会”などでも議論・調査が行われましたがグルタミン酸ナトリウムが発生根拠となる証拠は見つからなかったとのことです。2000年になってからもアメリカの臨床医学雑誌にて、因果関係を否定する研究内容が発表されています。
そもそも、中華料理だけで発生したのではなく、メキシコ料理やイタリア料理の食事後も発生していたそうです。
そのころよりむかし、このうま味調味料は1920年頃に日本からアメリカへの輸出がはじまりました。当時のアジア人に対する人種差別思想も影響し、
アジア人差別思想 → アジア人の調味料 → あやしい
というような世相の後押しもあり、悪いイメージを広める要因になったようです。
勘違いで否定され続ける化学調味料
食品添加物と化学調味料
なぜこんなにうま味調味料が否定されるのでしょうか?
理由はもとの呼称の「化学調味料」が拡大解釈されていることにありそうです。
保存料、甘味料、着色料、香料など…これを化学調味料だと思っていません?
これらは化学調味料ではありません。「食品添加物」です。
うま味調味料協会によると800人を対象としたイメージ調査では
約50%のひとが食品添加物を化学調味料だと思い込んでいるようです。
また、その勘違いしているひとを含めて「化学調味料は天然に存在しない人口的物質」だと思っているようです。
うま味であるグルタミン酸は昆布やチーズなどさまざまな食品にもとから含まれている成分です。発見されたのが割と近年の1908年ということもあり、あやしみの気持ちも込められて人工的物質と見られ続けているのかもしれません。
石油から合成生成していた時期も…
約50年前1970年頃までの約10年間ほど、石油由来のアクリロニトリルといわれる物質から化学構造の一部が似ていることを利用して化学合成を行なっていた時期がありました。
この生成だけでもかなりの技術により人工的に合成されたグルタミン酸ナトリウムですが、自然に存在するものとまったく差がない品質になったようです。
ですが、アクリルニトリルそのものは有毒です。
いくら化学構造や研究で安全であるといわれても世論は疑いの目で見てしまいます。
それに、もとが有害なだけに、いつしかミスが発生して有毒な原液が製品に混入、出荷なんてことになったらとんでもないことになります。
当時は工場周辺の公害問題、為替変動による採算低下、そして世論から危険な食品として見られる大きなリスクなどからアクリルニトリルからの合成を取りやめ、現在の自然の農作物由来の発酵法にかわることになりました。
髪の毛から…?のバカげたウワサ
インドでは「髪の毛から味の素が作られる」なんてウワサが広まったようですがとんでもないばかげた話です。
髪の毛の構成要素=19種のアミノ酸で構成されている(グルタミン酸もある)
↓
味の素=グルタミン酸
↓
味の素=髪の毛
というような理屈のようです。否定理由を書くのも面倒なくらいです。
緑内障の原因になる?
今回調べていると「グルタミン酸ナトリウムの過剰摂取が緑内障の原因に」みたいな記事が多数見られます。緑内障は日本国内での失明の大きな要因になっています。
根拠はこれでしょうか?
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0014483502920178?via%3Dihub
うま味として認識されたのが近年なので、うま味調味料が標的にされています。
ですがグルタミン酸そのものは、だし文化の日本ではむかしから取られていた成分なので食文化にも警笛を鳴らさないといけないと思うのですが、そろいもそろって「化学調味料無添加を選べ」という論調。
グルタミン酸とグルタミン酸ナトリウムは違いますが今回の研究はグルタミン酸ナトリウムだけを標的にしているのが気になります。わたしの英語力不足で解読しきれてないので気になる方は原文をお読みください。
論文も断定ではなく、あくまで可能性があるといった論調なので過信は禁物です。
さいごに
調べてみると、いろいろ誤解があることがわかりました。
”うま味調味料”と改名しても世間では”化学調味料”のほうが広まっていると思います。また、食品添加物と混合した誤解も根強く、否定的な目線はなかなか解消できないと感じました。
今回の記事を書くにあたって「他のラーメン屋ではうま味調味料を使っていないのか?」と思い、YouTubeでラーメン屋さんでのラーメン作成風景を撮影した動画を確認していました。結構なわりあいで”味の素のハイミー”であろう白い粉をどんぶりに入れている映像が映り、コメント欄で「化学調味料入れすぎ!」「魔法の粉があればそりゃうまいよな」みたいな全否定っぷりが展開されていました。(逆に二郎系は受け入れられていたり)。
らーめん好きなひとの個人的な意見によると「コストの観点からも受け入れられて、90%以上のお店は使っている」とまでいっていました。その真偽はわかりませんが、むかしからあるような食堂はまず入れているだろうとのこと。それはそれでまた別の機会に確認してみようかと思いますがまた別のおはなし。
ともかく、うま味調味料を使っていることはそんなに気にすることもないように思います。わたしの舌はそんなに繊細じゃありませんし、毎日つくるみそ汁をダシからとるとなると、時間的にも体力的にも苦痛になってしまいます。(あくまでわたしの考えです)
料理を作るときには、入れすぎない程度のうま味調味料にたよってみたり、ときにはこだわって時間をかけて昆布や鰹節からダシをとってみたりとその時々で使い分けていこうと思います。
参考になる関連サイト
特定非営利活動法人うま味インフォメーションセンター
https://www.umamiinfo.jp/
味の素
https://www.ajinomoto.co.jp/aji/
日本うま味調味料協会
https://www.umamikyo.gr.jp/
一般社団法人日本食品添加物協会
https://www.jafaa.or.jp/